あらすじ
『しあわせのねだん』は、角田光代による、お金をテーマにしたエッセイです。
電子辞書やSuica、旅行先での食事、人助けに使った1000円など、日常のさまざまな「買い物」を通して、お金と人生の関係を見つめていきます。
「生きていれば自然とお金は出ていって、使いすぎればサイフも気持ちもやせるけれど、その全部で私は何を買ったことになるんだろう。」
そんな問いを軸に、お金では測れない「しあわせのねだん」を、角田さんらしい軽やかな文章で綴った一冊です。
引用元: 新潮社『しあわせのねだん』作品紹介
エッセイを読む楽しさを知った一冊
私はこれまで、エッセイをほとんど読んだことがありませんでした。
この本も、たまたま図書館で見つけた一冊です。
借りるかどうか迷いながら、何気なく最初のページを開きました。
すると、
「七時半に起きて牛乳を飲んで仕事場へいく。八時から仕事をはじめる。これが私の毎日である。」
この一文を読んだ瞬間、不思議なくらい文字を追う目が止まりませんでした。
この文章は「昼めし」というエッセイの始まりです。
決して特別な出来事ではありません。
それなのに、「作家である角田光代さんは、どんな毎日を送り、どんなことを考えているのだろう」と、続きを読みたい気持ちでいっぱいになりました。
この一冊のおかげで、私はエッセイを読む面白さを知ったような気がします。
お金を使うことは、人生を豊かにすること
この本の中で、特に心に残った言葉があります。
「三十代に使ったお金というのも、きっとこの先、なんらかの意味を持つのだろうと思う。」
さらに角田さんは、
「なんにもお金を使わなくって、貯金額だけが異様に高い」という状態を恐ろしいと書いています。
この言葉を読んだとき、私の中で何かがふっと軽くなりました。
節約することは大切です。
でも、「使わないこと」と「節約すること」は同じではありません。
たとえ思ったような結果にならなくても、「これはそういうものなんだ」と学ぶことができます。
旅行も、本も、新しい趣味もそうです。
お金を使うことでしか得られない経験があります。
私はこの考え方にとても共感しました。
でも、お金では埋められないものもある
ところが、あとがきを読んで、その考えは少し変わりました。
40代になった角田さんは、
「お金と心はときとして、体と心の如く関係しあう」
と書いています。
さらに、
「疲れているとき、しんどいとき、ストレスフルなとき、私たちは、自分でもよくわからないお金のつかいかたをしている」
という一文が続きます。
私は、この言葉に思わず立ち止まりました。
私自身にも思い当たることがあった
フルタイムで働きながら子育てをしていた頃のことです。
一週間頑張った自分へのご褒美として、毎週のようにスーパーで刺身の盛り合わせを買っていました。
「今日は金曜日だから。」
そんな理由をつけて、お酒のおつまみまで買う。
普段は時間がなくて作れないような料理も、「今度こそ作れる」と思って食材を買い込み、結局使い切れずに傷ませてしまったことも何度もありました。
当時は、「買えば満たされる」と思っていたのかもしれません。
でも今振り返ると、本当に欲しかったのは食材でも刺身でもなく、心の余裕でした。
心が疲れているときは、お金では満たされない
私はこの本を読んで、
「お金を使うことは経験につながる。」
という考えにとても共感しました。
でも、それが100%当てはまるわけではないことも教えてもらいました。
心が疲れているときのお金は、新しい経験を得るためではなく、苦しい気持ちを埋めようとして使ってしまうことがあります。
もちろん、それが悪いわけではありません。
誰にでもそんな時期はあります。
でも、お金は心のバランスそのものを取り戻してくれるわけではない。
この言葉は、今30代の私にとって、とても大きな気づきでした。
今の30代だからこそ響いた
私は今30代です。
だからこそ、この本は今読む意味があったのだと思います。
数年前の私なら、「お金を使うことは経験になる」という部分だけで終わっていたかもしれません。
でも今は、「心が疲れているときほど、お金との付き合い方を見つめ直したほうがいい」という角田さんの言葉にも深く共感できます。
実際にその状況になったとき、気づけるかどうかは分かりません。
それでも、この本を読んだことはきっと無駄にはならない。
「あのとき読んだ言葉だ。」
そう思い出せる日が来るような気がしています。
読み終えて思ったこと
『しあわせのねだん』は、お金について書かれたエッセイです。
でも私には、「心との付き合い方」を教えてくれる一冊でした。
前半では、「お金を使うことは経験につながる」という考え方に背中を押されました。
けれど、あとがきを読んで、お金はいつでも人生を豊かにしてくれるわけではないことも知りました。
本当に心が疲れているときは、お金では埋められないものもある。
だからこそ、お金の使い方には、そのときの自分の心が映し出されるのかもしれません。
だから私はこれから、お金を使う前に一つだけ、自分に問いかけてみようと思います。
「私は今、本当にこれが欲しいの?」
それとも、
「ただ疲れているだけじゃない?」
その答えがすぐに分からなくても、一度立ち止まって自分の心に耳を傾けることは、きっと無駄にはならないはずです。
今の30代の私だからこそ、この言葉に出会えたことにも意味があったように思います。
40代になったとき、50代になったとき、この本を読み返したら、また違う言葉に心を動かされるのかもしれません。
『しあわせのねだん』は、お金の使い方だけではなく、自分の心との向き合い方まで教えてくれた一冊でした。



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