原田ひ香さんの小説にハマりまして、3冊目にこちらの本を読了しました。
あらすじ
有名建築家が手がけた一等地のデザイナーズマンション。しかし、その建物には深刻な欠陥があり、建て替えを巡って住民や管理組合、建築事務所、それぞれの思惑が交錯していきます。
新築への建て替えを望む住民。歴史ある建築を残したい人々。そして、このマンションを設計した建築家と深く関わってきた人たち。
「終の住処」とは何なのか。住まいを巡る問題を通して、人間の欲や誇り、人生が描かれる物語です。
引用元:新潮社『そのマンション、終の住処でいいですか?』作品紹介
感想
タイトルを見たとき、私は「マンションの建て替え」や「不動産」の話が中心の作品だと思っていました。
実際に物語の中心にあるのは、有名建築家・小宮山吾郎が設計した「赤坂ニューテラスメタボマンション」の建て替え問題です。
住民、管理組合、小宮山デザイン事務所、そして小宮山吾郎の娘・みどり。
それぞれの立場と思惑が複雑に絡み合い、建て替えを巡る議論が展開されます。
もちろん、その過程も十分に読み応えがありました。
しかし、読み終えた今、私の心に一番残っているのはマンションではありません。
岸田という一人の人生でした。
建て替え問題の裏にあった人間模様
物語を読み進める中で、私は当然のように考えていました。
小宮山吾郎の右腕としてマンションの建築に携わった岸田は、きっと建て替えには反対なのだろう、と。
自分が関わった建築です。
建築家としての誇りもあります。
思い入れがないはずがありません。
一方で、小宮山吾郎の娘である小宮山みどりも、父親の名前を残したい気持ちから建て替えには反対するのではないかと思っていました。
しかし、実際は違いました。
みどりは「父の名前を残したい」という考えに執着していませんでした。
「そこに住む人が決めるべき。」
その姿勢がとても印象的でした。
だからこそ、最後まで多くを語らなかった岸田の沈黙が、より重く感じられたのです。
岸田が守りたかったもの
読み終えてからも、私は岸田のことばかり考えていました。
彼は何を思っていたのだろう。
なぜ最後まで沈黙を貫いたのだろう。
物語が進むにつれ、その理由が少しずつ明らかになります。
岸田は、ただマンションを守りたかったわけではありませんでした。
彼は長い年月、小宮山家に振り回されながら生きてきた人物でした。
そして最後まで、その人生は小宮山家によって大きく揺さぶられてしまいます。
その姿を見ていると、胸が苦しくなりました。
人は、報われないことがある
この作品を読んでいて何度も感じたのは、「人は必ずしも報われるわけではない」という現実です。
自分が考えた案なのに、別の人の手柄になってしまうこと。
誰かのために力を尽くしたのに、その努力がなかったことのように扱われること。
一度の過ちを償うために懸命に働いてきたのに、たった一言で積み上げてきたものが崩れてしまうこと。
岸田の人生には、そんな理不尽さが詰まっていました。
だから私は、この作品を読みながら何度も「いたたまれない」という気持ちになりました。
決して派手な出来事ではありません。
でも、現実にも起こり得るからこそ、胸に刺さるのだと思います。
人には、それぞれ事情がある
この作品には、本当に多くの立場の人が登場します。
建て替えを望む住民。
思い出を守りたい人。
管理組合。
建築家。
家族。
誰か一人が悪者というわけではありません。
それぞれに事情があり、それぞれに守りたいものがあります。
だから簡単に「この人が正しい」と言えないところが、この作品の魅力なのだと思いました。
人は、自分の立場からしか物事を見られません。
でも相手にも、その人なりの人生があります。
当たり前のことですが、この作品はその当たり前を改めて考えさせてくれました。
守りたかったのは、マンションではなかった
私は軽い気持ちでこの作品を手に取りました。
マンションのことや不動産について、小説を通して知ることができたら面白そう。
そのくらいの気持ちでした。
だからこそ、この結末には本当に驚きました。
読み終えた今、「この作品は何を伝えたかったのだろう」と考えています。
私なりに出した答えは、人は建物ではなく、その場所で積み重ねてきた人生を守ろうとしているということです。
岸田が守りたかったものも、マンションそのものではありませんでした。
そこに込められた時間や思い、そして自分自身の人生だったのではないでしょうか。
だからこそ、自分の守りたいものが、影響力のある人の一言で簡単に崩れてしまう。
その儚さを思うと、私はこの気持ちをどう整理すればいいのかわかりませんでした。
総評
『そのマンション、終の住処でいいですか?』は、マンションの建て替えを描いた小説でありながら、その本質は人間関係を描いた物語でした。
住まいを巡る争いの裏で、それぞれの人生や誇り、報われなかった思いが静かに描かれています。
読み終えたあとに心に残ったのは、建物ではなく岸田という一人の人物でした。
守りたかったものは何だったのか。
その問いは、きっと岸田だけではなく、私たち一人ひとりにも向けられているのかもしれません。



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