あらすじ
『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は、旅をしたくてもできない人の代わりに旅をする「旅屋おかえり」が主人公の物語です。
今回丘えりかこと、おかえりが依頼を受けたのは北海道への代理の旅。
依頼人・古澤めぐみには、自分ではどうしても会いに行けない三人の大切な人がいました。
幼い頃から母親代わりとなって自分を育ててくれた姉。
かつて愛した人の母親。
そして、十八年という長い年月が過ぎても忘れることのできない、かつて愛した男性。
旅を通して、おかえりは依頼人の想いを届け、人と人との間に残された時間や後悔、優しさに触れていきます。
旅の物語でありながら、人とのつながりや「帰る場所」の意味を静かに描いた一冊です。
(※あらすじは書籍をもとに紹介しています。)
「旅の物語」だと思って読み始めました
私は今回、原田マハさんの作品を初めて読みました。
最初は、おかえりが旅先でさまざまな人と出会い、成長していく物語なのだろうと思っていました。
もちろん、その印象も間違いではありません。
でも読み終えた今、私の心に残ったのは、旅の景色よりも、登場人物たちが交わす言葉でした。
誰かを思う気持ち。
言えなかった想い。
長い時間をかけても消えない後悔。
その一つひとつが丁寧に描かれていて、何度もページを止めて考えたくなりました。
今回は、その中でも特に心に残った二つの場面を紹介します。
「人生で一番やりたいこと」を考えたことはありますか?
依頼人のめぐみは学生時代、純也という男性と将来を誓い合っていました。
しかし、母親代わりとして自分を育ててくれた姉・のぞみは、その恋を認めることができませんでした。
一方の純也も、自分の母親を大切に思っていました。
それでも二人は一緒に生きるため、駆け落ちを決意します。
ところが、その約束の日。
めぐみは待ち合わせ場所へ行くことができませんでした。
そして十八年という歳月が流れた今も、純也はその場所にいると知ります。
その事実を知っためぐみは、自分の代わりに旅をする「旅屋おかえり」に想いを託します。
旅の途中、おかえりは純也のお母さんと出会います。
そこで語られた言葉が、私の心に深く残りました。
「なんの職業だっていい、なんになったっていい。でもね、あんたが人生で一番やりたいと思うことをやれる人になりなさい」
さらに、お母さん自身はこう続けます。
「あたしはね。人生で一番したかったこと、さっさとやっちゃったのよ。それはね、ふたつもあったの。子供を産んで育てること。それから、自分の手料理を、おいしい、って誰かに言ってもらうこと」
この言葉を読んで、私はふと考えました。
そして、もう一つ気づいたことがあります。
純也にとって『人生で一番やりたいこと』は、めぐみとの待ち合わせ場所で待ち続けることだったのではないでしょうか。
十八年という長い時間を、その場所で過ごす。
普通に考えれば、とても理解できる行動ではないかもしれません。
でも純也にとっては、それほどまでにめぐみとの約束が大切だった。
「人生で一番やりたいこと」とは、夢や仕事だけではないのかもしれません。
誰かを信じて待ち続けること。
誰かを大切に思い続けること。
それもまた、その人にとってかけがえのない人生なのだと、この物語は教えてくれました。
「人生で一番やりたいこと」
簡単そうで、実はとても難しい問いだと思ったのです。
やりたいことを考えたことがない人。
やりたいことはあるけれど、今は事情があってできない人。
夢に向かって歩いている途中の人。
そして、すでにやりたいことを叶えている人。
きっと、人それぞれ答えは違います。
では、私はどうだろう。
そう考えたとき、すぐには答えが出ませんでした。
でも、この問いを持つこと自体に意味があるのかもしれません。
毎日の忙しさの中では、目の前のことをこなすだけで精一杯になることもあります。
だからこそ、時々立ち止まって、
「私は本当は何を大切にしたいんだろう。」
そんなふうに考える時間を持ちたいと思いました。
「おかえり」と言ってくれる場所
もう一つ、忘れられない場面があります。
おかえりとのぞみが話しているとき、のぞみはこんな質問をします。
「ふるさとって、おかえりさんにとって何ですか? 生まれた場所のこと?」
その問いに、おかえりはこう答えます。
「『おかえり』って言ってくれる人がいるところ」
この一文を読んだ瞬間、私は胸が温かくなりました。
もちろん、生まれ育った場所は誰にとってもふるさとです。
でも、それだけではないのかもしれません。
「おかえり。」
そう言って迎えてくれる人がいる場所。
安心して帰れる場所。
それが本当の意味でのふるさとなのではないか。
私はそんなふうに感じました。
そして、その場所は生まれた土地だけではなく、自分自身で築いていけるものなのかもしれません。
家族でも、友人でも、大切な誰かでも。
「帰っておいで。」
そう言い合える関係をつくることも、一つの人生なのだと思いました。
読み終えて思ったこと
この本を読んで、私は旅がしたくなりました。
景色を見たいからだけではありません。
旅先で出会う人や言葉が、自分の考え方を少しずつ変えてくれる。
そんな旅をしてみたいと思ったのです。
そして同時に、旅は遠くへ行くことだけではないのかもしれないとも感じました。
誰かに会いに行くこと。
言えなかった気持ちを伝えること。
大切な人を思い出すこと。
そんな一歩もまた、人生を変える旅なのだと思います。
『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は、旅の物語でありながら、人とのつながりや人生で本当に大切なものを静かに教えてくれる一冊でした。
読み終えたあと、私はふと自分に問いかけました。
「私が人生で一番やりたいことは何だろう。」
そして、もう一つ。
「私には『おかえり』と言ってくれる場所があるだろうか。」
すぐに答えは出ませんでした。
でも、その問いを持てたこと自体が、この本を読んだ一番の収穫だったように思います。



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