今回は透明な夜の香りに続くシリーズ第二弾の『赤い月の香り』を読んでみました。
レビューというよりエッセイ要素が強めなのですが、ご参考いただけますと幸いです。
あらすじ
「君からはいつも強い怒りの匂いがした」
カフェでアルバイトをしていた朝倉満は、客として来店した小川朔に、自身が暮らす洋館で働かないかと勧誘される。朔は人並外れた嗅覚を持つ調香師で、その洋館では依頼人の望む香りをオーダーメイドで作り出す仕事をしていた。
朔のもとには、香りにまつわるさまざまな執着を持った依頼人が訪れる。その欲望に向き合ううちに、やがて朔が満を仕事に誘った本当の理由が分かり……。
香りを文学へと昇華させた、第6回渡辺淳一文学賞受賞作『透明な夜の香り』に続く、ドラマチックな長編小説。
※集英社HPより抜粋
透明な夜の香りのシリーズ第二弾がついに文庫本になったってことで購入しました。
人並外れた嗅覚を持つ調香師の小川朔を中心に繰り広げられる物語の第二弾。
感想
元々、恋愛的な要素を期待して第一弾から読んでいたので、一香さんがあまり出ないことに若干の寂しさを感じておりましたが、その要素がなくとも十分に楽しむことができました。
前作のように家政婦(夫)のような仕事ということで朝倉満が主人公として登場するわけですが、違和感がありまくりなのです。
私が前作を読んで思った小川朔は、嗅覚でなんとなく相手の思っていることがわかってしまう分、人間の感情自体が苦手で人間自体を避けているようなイメージがありました。
どうして小川朔は、こんな怒りっぽい満を家政夫として雇ったのかとか、満の怒りの沸点の低さに共感ができなかったり…それもこれも物語の終盤で答えが出てきます。朔が満を雇った理由も…。ですが、ところどころで登場する一香の不思議な安心感や透明さ、唯一無二の存在感に圧倒しつつ、彼女の口から織りなす言葉に心が浄化されるような気持ちさえ感じ、読了後はぼーっとしてしまいました。この本の世界は特別な感じがするんです。だって、嘘をついている時の匂いや相手の背景がわかるような香りって想像つかないじゃないですかって思ってしまうのです。そういうあり得そうであり得ないような若干のファンタジー要素が入った物語に弱いのかなと、新たな自分を知るきっかけにもなりました。
物語の途中で、嗅覚と性的欲求の関係性の描写で下記のような箇所がありました。
「匂いは大事だって。無意識下で遺伝子の匂いを嗅ぎわけて相手を選んでいるって研究結果もあるみたいだし。知り合いのおネエちゃんがしょうもないおっさんと不倫しててさ、誰に
なに言われてもやめなかったの。でも、ある日、ぱったり別れたのよ。なんでって訊いたら、いままで好きだった体臭が油粘土みたいに感じたんだってさ。そしたらもう寝るの無理になったらしい。匂いって駄目になったらのう終わりなんだろうな。どんだけ長く付き合っても、情があっても、どうにもなんないんだよ。」
匂いと性的欲求の結びつきの強さを感じました。この会話が登場するシーンで小川朔の元に訪れたのは夫婦であり、恋愛とはまた違った匂いに関するお話でしたが、私はこのフレーズがとても印象に残っています。
香り…そう考えると私も忘れられない香りがいくつかあるなと、ふと思います。
きっと誰にでもありますよね、辛いことを思い起こすような香り、忘れたくとも忘れられない香り、こんな香りだったなと懐かしむ香り、青春を感じて若返るような気持ちになる香り……この物語を読んでいるだけなのに、自分の過去を思い出し、一時的に過去にタイムリープするような…そんな気持ちになるんです。香りって大切なんですよね。
さらには、体臭に関する話の中で、「体臭を求めることは唯一無二の欲望」だという記述もありました。同じ香水を纏っていても体臭と合わされば最終的な香りは違う。
そうすると、匂いって本当に大切なものなんだと思うのです。そんなことに頭を巡らせつつ、自分にとっての唯一無二の香りに憧れを感じるのでした。
このシリーズを読んだ後に思うことがあります。気のせいか読了後はいつも以上に鼻が敏感な気になってしまうんですよね。元々、HSP気質な私は、特に鼻と耳が敏感です。人によって敏感な箇所は様々らしいのですが。リラックスできるような香りを求めたくなってしまうのです。そして、そんな欲求を持つ自分に不思議と生きていることを実感できるような気持ちになれるのです。
香りの説明って難しいと思いますが、千早茜先生の香りに対する言葉での表現力や言葉の美しさにいつも心が洗われます。
香りの世界に没頭したい方におすすめの一冊です。



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