本屋へ行くと、私は決まった本を探すというより、「何か今の自分に必要な本はないかな」と店内をゆっくり歩き回ることがよくあります。
そんなある日、一冊の本が目に留まりました。
『コンビニ人間』。
平積みにたくさん並べられていて、帯には
「44の国と地域で翻訳決定」
「世界累計250万部超」
「芥川賞受賞作」
という文字が並んでいました。
「そんなに多くの人に読まれている本なら、一体どんな物語なんだろう。」
気が付けば、私はレジで会計を済ませていました。
読み始める前から、「この本はきっと私の考え方に何か影響を与えてくれる。」
そんな予感がしていたのです。
そして読み終えた今、その予感は間違っていませんでした。
この作品は、「普通とは何か」「自分らしく生きるとはどういうことなのか」を改めて考えさせてくれる一冊でした。
『コンビニ人間』のあらすじ
主人公・古倉恵子は、幼い頃から周囲との感覚の違いに戸惑いながら生きてきました。社会の「普通」が理解できず、自分だけが周りと違うことに悩み続けます。
そんな恵子が大学生の頃に出会ったのが、コンビニのアルバイトでした。
コンビニでは、接客の仕方や商品の並べ方、言葉遣いまで細かくマニュアル化されています。
恵子はそのルールを忠実に守ることで、「普通の店員」として働くことができ、自分の居場所を見つけたように感じます。
しかし、36歳になってもアルバイトを続ける恵子に対し、周囲は結婚や正社員になることを当然のように求めます。
「普通に生きること」と「自分らしく生きること」。
その間で揺れ動く主人公の姿を通して、私たちが当たり前だと思っている価値観を静かに問いかけてくる作品です。
心に残った場面
この本を読んで、一番印象に残ったのは、恵子がコンビニで初めて働いた日のこの言葉です。
「そのとき、私は初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。」
私はこの一文に、恵子という人物のすべてが詰まっているように感じました。
恵子にとってコンビニ店員になることは、ただアルバイトを始めることではありません。
「普通の人」として社会の中で認められることだったのです。
マニュアル通りに動けばいい。
笑顔で接客をすればいい。
決められたルールを守ればいい。
そうすれば、自分も「正常な部品」になれる。
恵子は、ようやく自分の存在意義を見つけたのでしょう。
もちろん、「普通」を求める場所は人それぞれ違います。
仕事かもしれない。
家庭かもしれない。
趣味の世界かもしれない。
でも、恵子にとっては、それがコンビニだった。
この一文を読んだ瞬間、私が日頃から何となく感じていた「普通でいなければいけない」という漠然とした気持ちが、言葉になったような気がしました。
「普通」であることに違和感を覚えたこと
私は昔から、
「この場合、何をするのが正解なんだろう。」
と考えることがよくあります。
特に前職で働いていた頃は、その気持ちが強くありました。
会議では、
「何を提案すれば上司は納得してくれるだろう。」
そんなことばかり考えていました。
自分が本当にどう思っているかではなく、相手が求めている答えを探している自分がいました。
会議が終わったあとも、
「あの発言は変じゃなかったかな。」
「余計なことを言っていないかな。」
と、何度も思い返してしまうことがありました。
恵子の考え方は、ときに極端で、突拍子もないように感じる場面もあります。
それでも、「普通でいたい」と願う気持ちだけは、とても理解できました。
私も「普通がいい」と思っていた
私は恵子の感性や考え方すべてに共感できるわけではありません。
でも、その気持ちは理解できます。
私も「普通がいい」と思って生きてきた一人だからです。
人と違うことを言えば目立ってしまう。
できれば悪目立ちはしたくない。
だから学生時代も職場でも、自分の意見より周りの空気を優先していました。
みんなが賛成しているなら私も賛成。
こう言えば喜ばれそうだと思った意見を口にする。
そうやって、「普通」を演じていたのだと思います。
でも、この本を読んで感じたのは、きっと私だけではないということです。
案外、多くの人が同じように「普通」でいたいと思っているのではないでしょうか。
そして私が思う「普通」と、誰かが思う「普通」は、きっと少しずつ違います。
つまり、「普通」というものは、一つではないのかもしれません。
人と同じ意見を持つこと。
空気を読むこと。
周囲に合わせること。
それは人間が集団で生きていくための、本能的な行動なのかもしれません。
だからこそ、その自分を否定する必要はないのだと思います。
「私は周りを気にするタイプなんだ。」
まずはそう認めること。
その上で、人と違う選択をしても、自分が心地良いと思えるなら、それでいい。
『コンビニ人間』は、そんなことを教えてくれた一冊でした。
こんな人におすすめ
この本は、派手な展開を楽しむ小説というより、「自分らしさ」について静かに考えさせてくれる作品です。
私はこんな人におすすめしたいと思います。
- 「普通って何だろう」と考えたことがある人
- 周囲の目を気にして、自分らしさを出せずにいる人
- 空気を読みすぎて疲れてしまう人
- 人と違う自分に悩んだ経験がある人
- 読み終えたあと、自分を少し肯定できる本を探している人
最後に
『コンビニ人間』は、「普通」の答えを教えてくれる本ではありません。
むしろ、「普通に正解なんてあるのだろうか」と問いかけてくる作品です。
だからこそ、読み終えたあとには、自分自身のことを少しだけ優しい目で見られるようになりました。
「普通」でいようと頑張ってきたことも、決して無駄ではなかった。
でも、それ以上に大切なのは、自分が心地よく生きられる場所を見つけることなのかもしれません。
そんなことを、私はこの一冊から教えてもらいました。


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