表紙の青春っぽさにつられて購入してみました。
あらすじをしっかり読んでいなかったので5つの話があるとは思わずびっくりしました。
今回も私なりに感じたことを綴ります。
まずはあらすじから。
あらすじ
青春は、気まずさでできた密室だ。始発の電車で遭遇したのは普段あまり話さない女子。二人は互いに早起きの理由を探り始め……(表題作)。部活の引退日、男同士で観覧車に乗り込んだ先輩と後輩。後輩には何か目的があるようだが(「夢の国には観覧車がない」)。不器用な高校生たちの関係が小さな謎と会話を通じて少しずつ変わってゆく。ワンシチュエーション&リアルタイムで進行する五つの青春密室劇。
※あらすじは集英社公式サイトより引用
それぞれ物語は40ページほどしかありませんが、一つひとつに日常の謎を扱うミステリー要素もあるので読み応えがありました…
『早朝始発の殺風景』
表題の話です。
タイトルの殺風景は始発電車のガラガラさを表しているのかと思っていたのですが実はヒロインの苗字なのです。笑
たまたま始発電車で出会った僕(加藤木)と殺風景。
てっきり始発電車から始める恋愛的展開を想像していたのですが、殺風景の早起きの理由に重厚感があり、爽快感というより、どちらかといえばホラーのような雰囲気を若干感じました。
しかし、怖がりでいけないことはしたくない僕はそんな彼女と電車の中で過ごした20分間で「僕」の考え方が変わっていきます。
それは、
殺風景がただの変わった子ではないこと
合理的に見えて、実は他人のために本気で動ける人だということ
発端となった事件を止めたいという思いが本物だということ
ではないかと思います。
では、何故「僕」が協力しようと思ったのでしょうか。
- 純粋な好奇心
最初は「なんで始発に?」「何を隠しているんだろう」という興味。
- 殺風景への信頼
会話を通して、彼女の推理力や真剣さを認めるようになった。
- 放っておけなかった
一人で抱え込もうとする殺風景を見て、「一緒にやろう」と自然に思える関係になった。
それを裏付けるように「僕」は「ロボットみたいに合理的だと思っていたけど、そうじゃないのかも」と見方が変化しています。
二人の間にあるのは、「気まずさ」から始まった相互理解ではないかと思いました。
はじめは同じクラスの顔見知りであり、学校以外で会うには話づらい関係性でありましたが、たった20分間でお互いを知り合い、会話を重ねることで少しずつ相手を理解していく過程に青春ならではの甘酸っぱさを感じる事ができました。
『メロンソーダ・ファクトリー』
個人的にはとても好きな作品でした。
女子高生特有のリアルな空気感や仲良しだからこそ「反対意見を言えない」「言われて傷つく」という気まずさが繊細に描かれています。
「悪者がいない」という世界観にもとても魅力を感じました。
真田も詩子もノギちゃんも、それぞれ相手を思って行動しているのに、少しずつすれ違ってしまうところが青春らしさがありました。
この話のテーマはミステリーというより、「仲が良いからこそ、本音を言えない」という青春の気まずさを描いている作品だと感じました。
詩子は反対したかったわけではなく、「もっと良くしたい」という気持ちから意見が食い違っただけでした。
でも、その一言で空気が変わってしまう、だからこそ、勇気を出して本音を伝えることの難しさと大切さが描かれているように思います。
読了してみて思うことは、気まずさは、関係が壊れるサインではなく、本音で向き合おうとした証なのかもしれません。
私は昔からの癖で人の顔色を見て意見をいうこと(もはや意見ではないですね)が習慣になっていました。
人の顔色を見ては「この人にとっては、どういう選択が答えなのだろう」としか思えないのです。
しかし、この話を読んでみて、本音で向き合えれば、今以上の関係を作れると思うと、自分の本当の気持ちを伝えることは自分を大切にすることにもつながるのではないでしょうか。
『夢の国には観覧車がない』
この作品も個人的には好きな作品でした。
「男同士の友情」がとても爽やかで、恋愛ではなく、後輩が先輩を思って行動する優しさに魅力を感じます。
特に後輩の伊鳥が相手を傷つけないように真実を伝えようとする優しさが印象に残ります。
この話を読んでみて一番印象的なのは、「優しさにも勇気がいる」というテーマです。
伊鳥は、寺脇にとってつらい現実を見せる役を引き受けます。
でも、それは相手を傷つけたいからではなく、前へ進んでほしいという思いからなのです。
だから、この話は謎解きよりも、「どうすれば相手のためになるのか」を考え続ける後輩の優しさが軸になっているように感じます。
では、伊鳥の行動はおせっかいだったのでしょうか、それとも本当の優しさだったのでしょうか。
途中の描写で、伊鳥は、この現実を知っているのは自分だけだからこそ言うべきだけど、言いづらいし言いたくなかったと話しています。
ここで見切りをつけて、大学受験へ気持ちを切り替えてほしいという彼なりの優しさである事がわかります。
私自身、こういった立ち回り役は本当に苦手で(好きな人もいないと思いますが)伊鳥は生半可な気持ちでやったわけではないと言うのが痛いほどわかります。
もしかしたら、そういった勇気を持つほど寺脇との関係性を大切にしていたのかもしれません。
『捨て猫と兄妹喧嘩』
この話を読んでみて、「家族だからこそ言えない本音」を描いているように感じました。
兄も妹も、お互いのことを思っているけれど、離婚によって生活が分かれたことによって、以前のように素直に話せなくなってしまっています。
その「気まずさ」が兄妹喧嘩という形で表されているように感じます。
一見、「猫を助ける」話のようで、捨て猫は家族の問題を映す存在だったように思います。
捨て猫は、行き場を失った兄と妹自身の象徴のように見えたからこそ、この兄妹にとって見過ごせないものだったのかもしれません。
最後には双方が納得できる形に落ち着き、新しい家族の形を垣間見ることができて温かい気持ちになりました。
『三月四日、午後二時半の密室』
個人的にすごく好きなエピソードでした。
「青春は、気まずさでできた密室だ。」という言葉の意味が一番伝わる話でした。
クラスという閉鎖的な空間の息苦しさがリアルに表現されていて、学生の頃にタイムリープしたかのような錯覚を覚えました。
この短編には、作品全体を象徴する一節が出てきます。
「青春ってきっと、気まずさでできた密室なんだ。狭くてどこにも逃げ場のない密室」
この話は、密室という言葉が指すのは部屋そのものではなく、人間関係なのではないかと感じました。
学校とは毎日同じ人と顔を合わせる場所であり、嫌なことがあっても簡単には離れられません。
だからこそ、密室とは、物理的な空間ではなく、逃げ場のない高校生活そのものを比喩表現しているのではないかと感じました。
卒業式の日に煤木戸さんと過ごした密室では、「気まずさ」がありつつも、人と本気で関わろうとした証が残っているように思います。
実際に、エピローグでの煤木戸さんからは抱えていた悩みから解放されたような様子が伺えます。
総評
「青春は、気まずさでできた密室だ。」というキャッチコピーの通り、「密室」と「気まずさ」が作品全体を貫くテーマでありました。
『早朝始発の殺風景』は、日常ミステリーというよりも、「人と人との距離」を描いた青春小説でした。
登場人物たちは、それぞれ気まずさや本音を抱えながらも、相手と向き合うことを選びます。
その積み重ねが、少しずつ関係を変え、前へ進むきっかけになっていく姿が印象的でした。
タイトルだけを見ると少し物騒な印象を受けますが、読後に残るのは温かさです。
「青春は、気まずさでできた密室だ。」という言葉の意味も、読み終えたときには自然と腑に落ちました。
誰もが一度は経験したことのある「言えなかった本音」や「うまく伝えられなかった気持ち」を思い出させてくれる作品だと思います。
私は、気まずさは決して悪いものではなく、相手を大切に思っているからこそ生まれる感情なのだと感じました。だからこそ、この作品は青春時代を懐かしむ人だけでなく、人との関わり方に悩んだ経験のある大人にも読んでほしい一冊です。
「気まずさ」は、人との距離を遠ざけるものではなく、本音で向き合おうとした証なのかもしれません。『早朝始発の殺風景』は、そんな青春の不器用さと温かさを静かに描いた作品でした。



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