「すべて真夜中の恋人たち」を読了しました。
川上未映子さんの作品を読むのは今回が初めてでした。
あらすじ
<真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。
それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。>
入江冬子(フユコ)、34歳のフリー校閲者。人づきあいが苦手な彼女の唯一の趣味は、誕生日に真夜中の街を散歩すること。友人といえるのは、仕事で付き合いのある出版社の校閲社員、石川聖(ヒジリ)のみ。ひっそりと静かに生きていた彼女は、ある日カルチャーセンターで58歳の男性、三束(ミツツカ)さんと出会う……。
あまりにも純粋な言葉が、光とともに降り注ぐ。
いま、ここにしか存在しない恋愛の究極を問う衝撃作。
※あらすじは講談社公式サイトより引用
感想
読了直後の感想としては、主人公の冬子にすぐ共感することはできませんでした。
34歳という年齢を考えると、どこか思春期の少女のような危うさを感じたからです。
でも、読み進めるうちに、その幼さは性格ではなく、誰とも深く関わらずに生きてきた時間の長さからくるものなのかもしれないと思うようになりました。
もう一つ印象に残ったのが、「真夜中」というタイトルです。
三束さんは「真夜中には世界が半分になる」と語ります。
この言葉を読んだとき、昼間のように誰かと関わる時間ではなく、自分自身と静かに向き合える時間こそが真夜中なのだと感じました。
人との距離に悩み、生きづらさを抱えてきた冬子にとって、真夜中は安心して自分らしくいられる場所だったのかもしれません。
だからこそ、この物語は恋愛小説である前に、「孤独な人が誰かと出会い、自分の世界を少しずつ広げていく物語」なのだと思いました。
読み始めた頃は、冬子の言動ばかりが気になり、なかなか共感することができませんでした。
でも読み終えたあとに振り返ると、それは幼さではなく、人との関わり方を知らないまま大人になった人の不器用さだったのだと思います。
共感はできなくても、理解したいと思える主人公でした。
また、冬子が校閲者という仕事をしていることにも意味があるように感じました。
校閲者は、人の文章を読み、誤りや違和感を見つけ、正しい形へ整えていく仕事です。
一方で冬子自身は、自分の気持ちをうまく言葉にできず、人との距離も縮められません。
その対比がとても印象的でした。
誰かの言葉を整えることはできても、自分自身の心は整理しきれない。
そんな不器用さが印象的でした。
そんな冬子の不器用さや孤独が、この仕事を通してより強く伝わってきたように思います。
私が三束さんに魅力を感じた理由は、穏やかで知的な雰囲気と、冬子の孤独を否定せず静かに受け止める包容力でした。
物理や光について語る姿も印象的で、どこか哲学的な空気をまとっている人物です。
ただ、三束さんは「冬子を救うヒーロー」として描かれているわけではありません。
むしろ、冬子が自分自身と向き合い、少しずつ変わっていくためのきっかけを与えた存在だったように感じます。
人生を変える出会いとは、誰かに救われることではなく、自分の見える景色が少し変わることなのかもしれません。
一方、三束さんは決して完璧な人ではないのかもしれません。
それでも、冬子の人生を変えるには、十分な存在だったのだと思います。
この作品を読み終えて、「人生を変える出会い」とは、誰かに人生を救ってもらうことではなく、自分の世界の見え方が少し変わることなのかもしれないと感じました。
そしてそれは、きっと冬子にとって、必要な出会いだったのだと私は思います。
冬子は三束さんと結ばれることはありません。
それでも、冬子は救われたのだと私は思います。
誰かと結ばれることだけが救いではなく、その人と出会ったことで世界の見え方が変わることもまた、一つの救いなのではないでしょうか。
だからこそ、この物語は恋愛小説でありながら、「人との出会いは人生に何を残すのか」を静かに問いかけてくる作品だったように感じました。



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